あと何回同じやりとりを繰り返せば
貧乏な我が家であるが、小学校の水泳の授業で困らないように、子供2人をプールに通わせている。もちろん、サッカー教室と同じく、この近辺で月謝が一番安い教室である。
この教室には知り合いも多く通っていて、毎週のように学校関係やら幼稚園関係の人に嫌でも会ってしまう。今日も子供が着替え終わるのを待っていると、幼稚園で同じクラスの保護者数人に出くわしてしまった。
「お疲れ〜!」
「あっ、お疲れ様…」
「なかなかコロナ落ち着かないねー、園の行事も軒並み縮小だったしやった気しないよねー」
当たり障りのない話を少しばかり交わして、トイレに逃げようと思ったのだが、なかなか会話を切るタイミングが掴めない。すっぱり切れないのもコミュ障ならでは。相手にどう思われるかばかりを気にして、その場に留まってしまう。
「てか、みんな同じ時間だったんだね〜。今、◯◯くん何級?」
「6だよ。△△くんと××ちゃんは?」
私の返答に気を良くする2人。それで何となく察したが、念の為、回答を待つ。
「うちは1〜」
「うちの子は2だよ〜」
「えー!すごいね!もうそんなに泳げるんだ!2人とも上達が早いんだね〜」
いつもの様にワントーンどころかスリートーンぐらい大袈裟に声を高くして、相手を褒めちぎる。早く退散するつもりが、身体に染み付いたヨイショ芸のせいで、自らドツボにハマって行く。
「うん、そうかもね。運動神経はいいから」
「うちも何故か検定は毎回受かるかも〜。普段全然真面目に練習してないのに!」
「そんな事ないよ、△△くん、すごく上手に泳いでたよ!検定に受かるのも、ちゃんと泳ぎが身体にしっかり身についてるからなんだよね!」
形だけでも謙遜されたら、されっぱなしにするのも何だか気持ち悪い。なので、更なるヨイショで持ち上げるしかない。自分でも、よくここまで調子のいい言葉が次から次へと出てくるものだなと感心する。
気付けば、1級差の△△くんママと××ちゃんママの間に、張り合っている空気を感じた。二人とも顔は笑ってても口元はプルプルしている。もう完全に私は蚊帳の外。子供もちょうどいいタイミングで着替えを終えてくれたので、やっとこのマウント合戦から解放される。
「じゃぁ、またー!」
満面の笑みを貼り付けて、この場を去った瞬間、大きなため息が出た。
こうなるのが分かっていたから、水泳もやらせたくはなかった。自分の子供の級で親同士が張り合うのは目に見えていた。
だけど、私自身が子供の頃カナヅチで、水泳の授業で非常に苦労した。なので、子供には同じ苦労をさせたくなくて、通わせているのだ。
幸い、子供は今まで一度も行きたくないと嫌がった事はないし、他の子に比べたら、ゆっくりかもしれないけれど、着々と1つずつ上達出来ているし、何より、上の子供が水泳の授業で全く苦労をしていないので、結果、良かったと思っている。
ちなみにこのやり取りは、別の保護者ともしている。毎週毎週、すごーい!と感嘆し、バカみたいによその子を褒めちぎっている。
しかし、驚いたのは、隣で話していたママグループでも、同じような会話が繰り広げられていた事。私だけじゃなく、みんなヨイショ病なのか。そう考えると、ママ友社会も、サラリーマン社会と本質自体はあまり変わらないのかもしれない。
とは言え、くだらないマウント合戦に気を取られ過ぎて、子供の成長を見逃してしまうのは、親として失格だ。外野の声に惑わされず、子供の可能性を信じ、もっとドンと構えていなければ。